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ASCO2009情報:タルセバは非小細胞肺がんの1次化学療法の維持療法としても有効!?

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がん医療総論
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 米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2009年総会が米国フロリダ州オーランドで5月29日より開催されますが,開催に先立ち,抄録集が公開されています。その抄録集から興味ある研究成績について,数回に分けて紹介したいと思います。
 今回は,プラチナ製剤を含む1次療法を行った非小細胞肺がん患者に対するエルロチニブ(商品名タルセバ)による維持療法の効果を評価する第III相試験(SATURN試験)の結果を紹介します。この試験成績に関しては,2008年11月6日に,Genentech社とOSI Pharmaceuticals社が,エルロチニブを維持療法として投与した群が良好な結果を示したことを発表しています
 


Cappuzzo F et al. ASCO 2009 #8001
http://www.abstract.asco.org/AbstView_65_32756.html

対象患者:
 1次化学療法としてプラチナ製剤を含む化学療法の4サイクル後に増悪が認められない進行非小細胞肺がん患者889例

研究デザイン:国際(160施設),プラセボ比較,二重盲検,ランダム化第III相試験

ランダム化:対象患者をエルロチニブ投与群(438例)またはプラセボ投与群(451例)にランダムに割り付け(抄録には

治療群:
 割り付けられた治療群に従って,エルロチニブ150mg/日(抄録には投与量が記載されていない)またはプラセボを腫瘍増悪または受け入れられない有害反応出現まで投与継続。

効果指標:
(主要評価項目)無増悪生存期間,EGFR発現(IHC+)例における無増悪生存期間
(副次的評価項目)全生存期間,奏効率,安全性,バイオマーカーとの関連性

結果:
1. 患者状況

 年齢(中央値) エルロチニブ群:60歳,プラセボ群:60歳
 性別(男性/女性) エルロチニブ群:73%/27%,プラセボ群:75%/25%
 組織型(腺がん+BAC/扁平上皮がん/他) エルロチニブ群:47%/38%/15%,プラセボ群:44%/43%/13%
   病期(III期/IV期) エルロチニブ群:26%/74%,プラセボ群:24%/76%
 人種(白人/アジア人/他) エルロチニブ群:84%/14%/2%,プラセボ群:83%/15%/2%
  ECOG PS(0/1)  エルロチニブ群:31%/69%,プラセボ群:32%/68%
 喫煙状況(現在喫煙/過去喫煙/喫煙なし) エルロチニブ群:55%/28%/18%,プラセボ群:56%/27%/17%

 有意差は認められないが,エルロチニブ群に腺がん+BAC例が多く,プラセボ群に扁平上皮がん例が多い傾向が認められる。

2. 無増悪生存期間(追跡期間中央値の記載なし)
・中央値 エルロチニブ群(437例):12.3週,プラセボ群(447例):11.1週
・12週無増悪生存率 エルロチニブ群:53%,プラセボ群:40%
・24週無増悪生存率 エルロチニブ群:31%,プラセボ群:17%

3. 奏効性
・奏効率 エルロチニブ群:12%,プラセボ群:5%,P<0.0001
・病勢制御率(CR+PR+12週以上のSD) エルロチニブ群:40.8%,プラセボ群:27.4%,P<0.0001

・全例      ハザード比0.71,0.62-0.82,P<0.0001
・EGFR発現例 ハザード比0.69,0.58-0.82,P<0.0001
・EGFR遺伝子変異例 ハザード比0.10,95%信頼区間0.04-0.25,P<0.0001 

 主要評価項目である無増悪生存期間が有意に延長した。
 特に,EGFR遺伝子変異陽性例では,その差が顕著であった。

 

 奏効率,病勢制御率もエルロチニブ群が有意に良好。

4. 全生存期間
 追跡期間が短く評価不能

5. 有害事象
 エルロチニブの主な有害事象は皮疹60%(プラセボ群9%),下痢20%(プラセボ群5%)であり,ほとんどがグレード1-2であった。重篤な治療関連有害事象はエルロチニブ群2.3%に認められ,治療関連有害事象のために,2.8%の患者がエルロチニブの投与を中止。

著者らの結論
 SATURN試験は,高い統計学的有意差で,主要評価項目でエルロチニブの有効性を評価する目的を達成した。1次化学療法の維持療法としてのエルロチニブは,忍容性が良好で,プラセボに比較して,病勢制御率を有意に改善しや 増悪を有意に遅延することが認められた。

<コメント>
 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の非小細胞肺がん治療における治療上の位置づけに関して,種々検討されています。
 汎アジアで行われたIPASS試験では,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が効果発現しやすい患者群,特に,EGFR遺伝子変異が認められた例では,1次療法として,カルボプラチン,パクリタキセル併用の標準的な化学療法より,ゲフィチニブ(商品名イレッサ)投与群が有意に無増悪生存期間が良好であることが示されています。
 しかし,ゲフィチニブは,1次化学療法後の維持療法として,効果は認められていません。

 今回のSATURN試験では,エルロチニブが1次化学療法後の維持療法としても有効と報告されていますが,ハザード比,P値は記載されているものの,50%無増悪生存期間や1年無増悪生存期間にどの程度の差あるのか,抄録には記載されていません。症例数が各群450例と多数例ですので,統計学的に有意になったとしても,また,ハザード比が0.71であることから増悪のリスクが39%減少したと企業のプレスリリースに記載されていますが,それらの絶対差が記載されていなければ,適切な評価はできません。このことに関しては,論文になった時点で明らかになると思いますので,その時点で評価したいと思います。
 また,この試験の層別因子は抄録に記載されていませんが,組織型にやや偏りが認められます。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は,腺がんに効果が発現しやすいことが知られていますので,エルロチニブ群に腺がん+BAC例がやや多く,プラセボ群に扁平上皮がん例が多いことは,エルロチニブ群にやや有利になっている可能性もあります。この点も論文として報告された時点で評価しなければならないと思います。

 しかし,エルロチニブはEGFR発現例やEGFR遺伝子変異が認められる例に対しては,1次化学療法後の維持療法としても効果を示す可能性もあるとおもいます。
 学会報告の詳細な紹介や論文発表など,詳細なデータが報告されることを楽しみにしたいと思います。

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