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がん疼痛治療のオピオイド製剤について思うこと

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がん疼痛治療に使用されるオピオイドとして,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルがあります。それらの薬剤は薬理学的特性があり,それらの特性を理解して患者に応用する必要があります。先日,緩和医療薬学会に参加し,参加した友人の方々の話をしましたが,オピオイド製剤に関して,少々疑問に思えることがありましたので,それらについて考えてみたいと思います。


 経口投与されたモルヒネは,肝臓で初回通過効果を受け,グルクロン酸抱合されてM6G,M3Gに変換することが知られ,腎機能異常があれば,それらの代謝物の排泄が遅延し,種々の精神症状を出現することが知られています。そのため,腎機能異常があれば,オキシコドンやフェンタニルに変更するオピオイド・ローテーションが行われることが多いと思われます。
 しかし,静脈内投与や経直腸投与(坐薬)では,初回通過効果の影響はありませんので,M6GやM3Gへの変換は少なくなることが報告されていますので,腎機能異常がある場合には,モルヒネの投与経路の変更,投与量の減量,投与間隔をあけることも重要な選択肢であることも知っていただければと思っています

オキシコドンに関しては,糖尿病やヘルペス後の神経障害性疼痛に効果を示すことから,がんの神経障害性疼痛にも効果を示す可能性も指摘され,症例シリーズ研究などでも効果があるとの報告もありますが,がん患者での質の高いランダム化比較試験で確認されるまでは,その可能性があると考えていた方が無難と思われます。
 オキシコドンは腎機能異常例にも問題なく投与できるということを話す方が多いのですが,腎機能異常では,CYP2D6により変換した活性代謝物であるオキシモルフォンの排泄が遅延し,蓄積される可能性がありますので,クレアチニン・クレアランスが著しく低下した例には,投与量の減量や投与間隔をあけることが必要になると思います。
 最近,がん臨床研究情報でもお伝えしたように,オキシコドンはCYP3A4阻害薬の併用で代謝が遅延することが認められていますし,日本でも,CYP3A4阻害薬とCYP2D6阻害薬の併用例で,呼吸機能が低下傾向にあるとの報告もあるようです。オキシコドンの呼吸機能に及ぼす効果は,フェンタニルより弱い可能性がありますが,CYP3A4阻害薬やCYP2D6阻害薬を併用する場合,特に腎機能異常がある場合には,呼吸数や瞳孔径を確認しながら,適切な投与量を選択することが必要になるでしょう

フェンタニルに関しては,マトリックス製剤(MT)が発売され,それに伴い低用量の製剤も発売になったことから,始めからフェンタニルパッチを使うべきとの声もあります。がん疼痛治療を開始する際には,患者に適切な投与量を選択するタイトレーションが必要になります。そのため,速放製剤によるタイトレーションを行うことが勧められています。フェンタニルパッチの低用量製剤でも効果発現には,12時間必要ですし,3日間毎に張り替える必要がある持続製剤であることには代わりはありません。最初から,フェンタニルパッチを勧める方は,モルヒネやオキシコドンの速放製剤での臨時追加投与(レスキュー)を使うことを勧めているようですが,フェンタニルパッチの最も低用量でもモルヒネ換算で約30mg/日に相当する量ですので,それより低い投与量で済む患者には過剰投与になる可能性もありますので,初期から投与することは適切とは言えないと思います。
 がん疼痛治療の基本原則は,患者の痛みの強さや性状の綿密なアセスメントとオピオイド速放製剤の小量から投与を開始し,鎮痛効果と副作用の観点から,患者に必要な投与量を設定するタイトレーションです。フェンタニルは低用量でも,この原則に当てはまりません。
 また,ある高名な方が,フェンタニルは合成麻薬であること,皮膚は異物排除のバリアで薬物を吸収するのには適さないということから,フェンタニルを批判しているとの噂を聞いたことがあります。現在,使用されている多くの医薬品は合成医薬品ですし,軟膏,クリームや貼付剤が数多くありますので,これらの批判は,的外れかも知れません。
 フェンタニルパッチでは,タイトレーションには向かず必要な投与量を決めることが難しいこと,皮膚の温度で吸収が変化するため,用量設定が難しいことなどから,初期からの投与は勧められません。また,脂溶性であるため,脂肪組織に移行する可能性があり,血中濃度だけで効果や副作用が把握できないことも問題になるかもしれません。
 さらには,CYP3A4阻害薬の併用で,フェンタニルの代謝が阻害され,呼吸抑制の副作用のために死亡する例も報告されていることから,FDAでは,フェンタニルパッチは,モルヒネ1日60mgくらいの投与を行った例に,併用薬に注意しながら投与を行うことを警告しています

 モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルは,優れたがん疼痛治療薬ですが,適切に使用しなければ,呼吸抑制や精神症状で患者を苦しめることにもなりかねません。
 マニュアル本は,基本的なことを記載していますが,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルの薬理学的特性を考慮した使い方について記載しているものは少ないと思いますので,マニュアル本を鵜呑みにするのではなく,これらの薬理学的特性を理解して,患者に応用していただきたいと思います。
 欧米諸国に比較して,オピオイドの使用量が少ないことが問題になっていますが,これはまだがん患者にオピオイドが投与されている例が少ないことを示唆しています。すなわち,まだまだオピオイドを投与しなければならない患者が多いことを類推できますが,オピオイドの投与が必要な患者に,適切にオピオイドを投与すれば,もっとオピオイドの使用量も増加すると思いますし,適切に投与されないで,日本のオピオイド使用量が増えても意味はないと思います。

 繰り返します,がん疼痛治療の基本は,患者の痛みの状況を適切にアセスメントして,WHOが提唱した三段階徐痛ラダーに従いながら,オピオイド投与を開始するときには,速放製剤で小量から投与し始め,患者に適する投与量を定めるタイトレーションを行い,突出痛に対してはレスキューを投与することと思います。
 また,オピオイド投与の際には,呼吸数,瞳孔径をルーチンに測定しながら,過剰投与になっていないかを把握することが重要と思います(フェンタニルは縮瞳がかかりにくいという話もあります)。

<関連情報>
がん疼痛治療に関する看護師教育の成果
http://clinicalscience.info/modules/cancer_research/details.php?bid=1484
腎機能異常時のオピオイドの投与
http://clinicalscience.info/modules/cancer_research/details.php?bid=1476
がん疼痛治療薬の話題から
http://clinicalscience.info/modules/cancer_research/details.php?bid=139
がん疼痛治療に関する臨床試験
http://clinicalscience.info/modules/cancer_research/details.php?bid=1188
FDAが再びフェンタニルパッチの適正使用について警告
http://clinicalscience.info/modules/canser_info_blog/details.php?bid=91
日本緩和医療学会に参加して
http://clinicalscience.info/modules/canser_info_blog/details.php?bid=204

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