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FDA承認に対する専門家の意見:転移性乳がん治療薬としてのアバスチン

カテゴリ : 
がんの薬物療法
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 先日,FDAが,HER2陰性転移性乳がんの一次治療薬として,ベバシズマブ(商品名アバスチン)を迅速承認したことをお伝えし,また,米国患者保護団体であるBreast Cancer Actionがその承認に対して批判していることをお伝えしました。
アバスチン,転移性乳がん治療薬としてFDAが承認
乳がん治療薬としてのアバスチンの承認に対する批判
FDAは,アバスチンの乳がんの適応承認を保留(要:有料会員登録)

 3月6日のMedscape Medical Newsに,乳がん専門家は,今回の承認を歓迎しているという記事が掲載されていました。
Medscape Medical News

 この迅速承認の基になったE2100試験というランダム化比較試験では,パクリタキセルとの併用で,無増悪生存期間が有意に延長(P<0.0001)しているものの,全生存期間は有意な改善が認められていません。
 この承認申請に関しては,昨年のFDAの抗腫瘍薬諮問委員会(ODAC)が,これまで治療を受けていない転移性大腸がんの一次治療としてのパクリタキセルとベバシズマブの併用療法は,ベバジズマブは腫瘍増悪を遅延させる効果はあるが,全生存期間を延長していないこと,この薬剤に関連する心臓血管系有害反応,出血や消化管穿孔など死亡を含む毒性を増加する可能性があり,リスクとベネフィットの分析が不十分であることから,承認すべきではないと勧告していたにも関わらず,今回の迅速承認となったことが議論の対象となっているようです。

 Breast Cancer Actionの他にNational Breast Cancer Coalition Fundという患者保護団体でも,「FDAは承認のバーレベルを低くした」「ゴールは患者に有効で安全と思われる最良の治療を提供することであり,この承認は,このゴールには到達しない」と述べています。

 しかし,乳がん治療の専門家は,無増悪生存期間は重要なエンドポイントであると主張しています。

 FDAの担当官は,全生存期間は現在でも標準的な承認基準であるが,過去にも無増悪生存期間で承認した薬剤もあり,全生存期間の改善が認められなくても,致死的な病状の進行を遅延させる臨床的に有用な有効な薬剤を承認するために,融通性を持った承認基準を持ちたいとコメントしているようです。

 ニューヨーク大学の准教授であるTiersten医師は,ベバシズマブは適応外使用で通常使用し,Genentech社の推計では米国で9000例の患者にベバシズマブを適応外使用しており,生存期間の改善が証明されるのは時間の問題と考えるとコメントしています。

 メイヨークリニックのPerez医師は,臨床研究者としては,無増悪生存期間は患者の重要なエンドポイントと考え,患者のQOL改善に対する効果も研究すべきで,特に生存期間が改善しない場合でもQOLの改善が重要であることを指摘しています。
 
 MDアンダーソンがんセンターのHortobagyi医師は,「FDAは乳がんでのベバシズマブによる適切な治療のみを承認した」と考えるとコメントしています。更に,「転移性乳がん患者を対象とする試験で,新薬が生存率で有意差を示すことは稀であり,大規模試験でも新薬を評価するのには限界があることとコメントし,転移性乳がん患者は,比較的慢性的な状況であるため,利用可能な薬剤で順次治療されることが多い。そのため,転移性乳がん患者一人あたり全経過で8〜10の異なる治療を受けている。新薬が導入されるとき,その新薬は8〜10の治療の一つになる。そのため,新薬が腫瘍の制御の期間を2倍にしたとしても,患者の税村期間には1/10しか影響しないでしょう。これを統計学的に明らかな差とするためには,1000例の患者が必要となる。全生存期間は,患者が受けるであろう他の7〜9の薬剤にも影響される」とコメントしています。
 更に,「無増悪生存期間は評価中の薬剤の効果を直接的に評価する指標であるが,新薬が従来の薬剤に比較して効果的であり,忍容性が良好で,毒性が少ないことや新薬のコストがより低く,投与しやすいなどの他の要因も考慮すべきである」ことを付け加え,「生存期間を延長しないために新薬を廃棄するというのは馬鹿げたと思う」とコメントしています。
 
 また,マイアミ大学のPegram医師は,「転移性乳がんの臨床の場では,治療の全体的なゴールは,その病気に関連する症状の緩和であり,パクリタキセル1剤とベバジズマブの併用は,他の多剤併用療法より明らかに毒性は少ない。このことはE2100試験では,患者のQOLを有意に改善していると判断できる。ベバシズマブの今回の承認は,治療選択肢が増え,患者が選べる治療が増えたという意味で,患者には良いニュースである」とコメントしています。

 インディアナ大学のMiller医師は,「転移性乳がんに対しては治癒を目的とするものではなく,早期に,可能か限り病勢をコントロールすることが重要である。ベバシズマブとパクリタキセルの併用は,乳がん患者の病勢コントロールを維持し,これまで化学療法のみで限界があった転移性乳がん患者に新たな治療選択肢を提供することができる」と述べています。

 米国がん協会のBrawley医師は,「FDAの承認は,深刻な病状の患者に新たな治療選択肢を加えた可能性がある。FDAは,保険でカバーされやすいように,新薬の生存期間の延長効果を示すことを要求することが多い。今回の承認プロセスは,承認の意思決定の重要な部分として,当局がQOLの問題を明らかにすべきであることを我々に伝えている」と述べています。

<コメント>
 紙面の都合で,割愛したコメントもありますが,乳がんの専門家として,やや製薬企業よりとの印象もありますが,今回の迅速承認に対する重要な意見を示していると思います。
 まとめますと,多くの専門家は今回の迅速承認に賛成していると思いますが,QOLに及ぼす影響を更に評価する必要があること,従来の治療と毒性(有害反応)やコストの比較が必要なことが上げられます。
 Pegram医師は有害反応が少ないから患者QOLが良好であると外挿できるとコメントしていますが,QOLは適切な質問票に患者に答えていただくことで初めて評価できるものですので,ベバシズマブに関しても,QOLを適切な方法で評価することも必要と思われます。
 ベバシズマブは,頻度は低いとはいえ,消化管穿孔,出血,血栓というように致死的な有害反応もありますので,これらの有害反応の予防対策が必須になることは間違いありません。これらの有害反応のリスク因子の明確化や出現した際の対策を確立することが重要であると思います。コストに関しても,ベバシズマブは高いと思います。最近,ベバシズマブの1回投与量を半分にしても,投与間隔を3週毎にしても効果が認められるという研究もありそうです。ということは,ベバシズマブの至適投与方法がまだ確立していないとも考えることもできます。
 販売促進も重要かもしれませんが,安全性やコスト面,そして有効性を考慮した至適投与法の確立が望まれます。
 また,Hortobagyi医師が述べているように,がん患者は全経過8〜10の治療を受けることになりますので,そのうちの一つの治療が効果を発揮しても,生存期間には1/8〜1/10の寄与しかないという視点は重要なことと思います。がん患者に提供する全ての治療を総合的に評価することは,現在では非常に難しいのですが,このような評価も今後考えていかなければならいのではないでしょうか。

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