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終末期の緩和ケアのガイドライン

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緩和ケア
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 米国内科学会(American Colledge of Physician, ACP)は,終末期の疼痛,呼吸困難及び抑うつの緩和ケアを向上するためのエビデンスに基づく治療に関するガイドラインを作成し,Annals of Internal Medicine誌の1月15日号に発表しています。


Qaseem A et al. Ann Internal Med 2008;148:141-146  

このガイドラインの目的は,終末期の緩和ケアを向上させるために,これまで発表されている利用可能なエビデンスを提示することであり,このガイドラインの対象読者は,終末期に近い患者の医療を行う医師全体で,対象患者は終末期で深刻な障害や症状があるいずれの患者としています。 このガイドラインの推奨は,同号に掲載されている緩和ケアの体系的評価と2006年5月に発表された米国AHQRによるEvidence Report/Technology Assessment No. 137(Cancer Care Quality Measures Symptoms and End-of-Life. AHRQ06-E001)などを体系的評価をすることで推奨を作成しています。
Cancer Care Quality Measures Symptoms and End-of-Life. AHRQ06-E001

  このガイドライン作成上の疑問(Guideline Question)は次の通りです。
1. 終末期を迎えつつある患者へ医療を提供する際に医師が取り組まなければならない重要な問題はなにか?
2. 終末期の定義は,緩和的アプローチによりベネフィットが得られる可能性がある患者を特定化することに何を示唆するのか?
3. 疼痛,呼吸困難,抑うつに対して効果的な治療はなにか?
4. 終末期を迎えつつある患者に対する事前医療(ケア)計画で何が重要な要素か? 
5. 終末期ケアの向上の促進に強調及び相談のどのような要素が効果的か? 
6. 患者が終末期を迎えようとしているとき,家族などの介護者に対して,どのようなアセスメントとサポートが効果的か?

 これらの疑問に関して,現在まで得られているエビデンスの体系的評価は下記の論文に示されています(この論文に関しては,後日お伝えしたいと思います)。
Lorenz KA. et al. Ann Internal Med 2008;148:147-159

 推奨の強さは,米国内科学会(ACP)の基準に従い,ベネフィットが明らかにリスクや負担を上回るものを強く推奨(strong recommendation),ベネフィットとリスクや負担とほとんど同じ程度を弱く推奨(week recommendation)と定めています。

(推奨)
1. 終末期の深刻な病状を示す患者では,医師は定期的に疼痛,呼吸困難,抑うつなどに関して定期的にアセスメントすべきである(強く推奨,エビデンスの質:中レベル)。
2. 終末期の深刻な病状を示す患者では,医師は疼痛治療に有効と証明された治療を使用すべきである(強く推奨,エビデンスの質:中レベル)。がん患者では,NSAIDs,オピオイド,ビスフォスフォネートがこれに含まれる(強く推奨,エビデンスの質:中レベル)。
3. 終末期の深刻な病状を示す患者では,医師は呼吸困難の治療として有効性が示された治療を使用すべきである。これらのは,緩和されない呼吸困難に対するオピオイド,低酸素症の短期間の緩和における酸素がある(強く推奨,エビデンスの質:中レベル)。
4. 終末期の深刻な病状を示す患者では,抑うつ治療として有効性が証明された治療を使用すべきである。がん患者の場合には,三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),心理学的介入がこれに含まれる(強く推奨,エビデンスの質:中レベル)。
5. 医師は,深刻な状況にあるすべての患者に,事前指示などへの記載など,前もっての医療計画を確実に示すべきである(強く推奨,エビデンスの質:低レベル)。

 今回のガイドラインは,終末期の疼痛,呼吸困難,抑うつに焦点を当てたものですが,このガイドラインに関する論文を読んで,このような推奨をしなければならないという米国の緩和ケアの状況やレベルは,日本と大きく変わらないと考えられます。
 今回示された推奨の基になっているエビデンスのレベルは中程度となっています。その理由は,がん疼痛治療に関する臨床試験を体系的評価した論文で示されています。
 その理由は,多くの癌疼痛治療の臨床試験で,①症例数が少ない試験が多いこと,②研究方法の質が低いこと,③介入や効果指標が一定となっていないこと,④患者の意向が不明確であること,⑤投与経路の違いが評価されていないこと,⑥鎮痛薬の副作用が記載されていないものが多いこと,⑦がん疼痛治療のQOLへの影響などが評価されていないなどです。

 この論文では,患者中心のがん疼痛治療実現には試験の質を向上させることが最重要課題であると述べられています。} Carr DB et al J Natl Cancer Inst Monogr. 2004;32:23-31

  オキシコドン(商品名オキシコンチン,オキノーム)は,がんの神経障害性疼痛に有効であることを証明した確固たるエビデンスがある強調する専門家もいます。この専門家が有効であると強調する基になっている臨床試験は,糖尿病性神経障害性疼痛と帯状疱疹後神経痛に関する3つのランダム化比較試験です。また,種々の要因が関与すると言われる神経障害性疼痛の試験で対象患者が36〜82例と非常に少ないものです。がんの神経障害性疼痛と糖尿病性,帯状疱疹後神経痛などと同じ機序と考えて良いかという問題点もあります。同じであると断言できないとすれば,そのエビデンスレベルは参考程度のものとして考えるべきで,同じであるとしても,症例数が不十分と言えますので,確固たるエビデンスとは言えません。
 オキシコドンが神経障害性疼痛に効果を示す可能性は高いと思いますが,がんの神経障害性疼痛に関しては,確立したエビデンスとは言えませんので,使用する際には注意が必要になると思います。
糖尿病性神経障害性疼痛36例のクロスオーバー二重盲検試験
Watson CPN,et al.Pain,105,71-78,2003
糖尿病性神経障害性疼痛オキシコンチン82例,プラセボ77例の二重盲検試験 
Gimbel J.S. et al. Neurology,60,927-934,2003
帯状疱疹後神経痛38例のクロスオーバー,二重盲検試験
Watson,C PN,et al.:Neurology,50,1837-1841,1998

 また,NSAIDsとオピオイドの併用を評価する試験では,僅かな併用効果しか示されていませんが,多くの併用を評価する試験では,NSAIDSの効果を明らかにすることを目的としているため,NSAIDsとオピオイドの投与量を固定して比較しています。
 がん疼痛治療の診療の場では,痛みの増強に伴ってオピオイドの投与量を増加することが行われていますので,実際の場と異なり,臨床に応用しにくい研究デザインとなっています。とはいえ,僅かながらでも併用が有意に良好な結果を示していますし,炎症を伴うことが多いがん疼痛ではNSAIDsを併用することが推奨されることになります。
McNicol E et al. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Jan 25;(1):CD005180  

 呼吸困難に対する治療法に関しても,強く推奨されているもののエビデンス・レベルは高いとは言えないようです。低酸素状態にあるときには酸素吸入が効果的であることは良くわかりますが,モルヒネ,抗利尿薬やステロイドの吸入などが行われることがあります。しかし,それぞれの試験結果は明確ではないことが多いと思います。
 呼吸器外科医であった岡部医師の説明によると,気管支に炎症がある場合には,ステロイド,浮腫がある場合には利尿薬,呼吸器の受容体刺激による呼吸困難の場合にはモルヒネと適応が異なりますが,患者の病態を混在させた試験が多いため,明確な結果が得られていないようです。確かに,岡部医院の患者さんは,呼吸困難の症状緩和に困ると言うことは少ないようですので,岡部医師の説明は説得力がありますし,正しいと言えるかも知れません。
 がん対策基本法が施行されてから,急速に緩和ケアが注目されてきています。緩和ケアの考え方が浸透することは本当に素晴らしいことと思いますが,新たな問題点も生じ始めています。

 緩和ケアは社会的に弱くなった患者さんの慈しみ,残りの人生を豊かに過ごしていただくためのものであると思います。そのためには,科学的に適切に評価された治療を患者さんの意向を確かめながら提供することが必要になります。
 一部の方のパワーゲームにそのような患者さんを利用してはならないのではないでしょうか。