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医師不足の報道について思う

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 最近,医師不足や看護師不足に関する報道が多くなってきています。特に東北・北海道など特定地域や産婦人科,小児科などの診療科での医師不足は著しく,へき地の診療所だけではなく,地域の中核病院でも医師が不足し,お産の取り扱いや,救急患者の受け入れをやめる医療機関も出てきています。
 OECDの調査をみても,欧米諸外国と比較しても,日本では人口1000人当たりの医師数が最も少ないことが明らかとなっています。
 また,日本の人口1000人当たりの病床数は16.5で,ドイツ8.9,フランス7.7,イギリス4.2,アメリカ3.3と比較しても多く,病床100床当たりの医師数は,日本が15.6人に対して,ドイツ39.6人,フランス35.2人,イギリス43.9人,アメリカ77.8人で日本が圧倒的に少なくなってしまいます。すなわち,日本は人口当たりの病床数が多いため,それをカバーするだけの医師数が多いとは言えない状況となっていると考えられるわけです。
 このことは,医療の必要性が少なく,介護が中心となるような老人のケアを介護施設ではなく医療機関で行ってきているために病床数が多くなっていることも考えられますし,風邪など軽医療と言われるときでも,大病院の外来に受診するために外来受診回数が多くなるという,コスト意識なく医療を受けられた日本ならではの結果とも言えます。

 診療科別の医師数に関しては,医療白書(2006年)にデータが記載されていました。アメリカに比較して,医師数が少ない診療科は,小児科,精神神経科,形成外科,産婦人科,リハビリテーション科,放射線科,麻酔科と現在社会問題となっている診療科で医師数が少ないこと示されています。
 また,都道府県別の医師数を見ますと,東京や福岡ではほぼすべての診療科で全国平均を上回るが,埼玉,千葉,愛知など多くの診療科で全国平均を下回り,石川,徳島,長崎などは多くの診療科で全国平均を上回る傾向を示し,必ずしも,大都市に集中し,地方は過疎となるとは限らないことを示されていますが,私が住む,東北6県では医師不足が顕著であり,特に青森の医師不足は深刻であることが指摘され,国民皆保険制度で都会の人と同じように保険料を徴収されているのにも関わらず,お産が出来ない,小児救急の対応が出来ない,麻酔科が不足して手術が出来ないような地方の中核病院もあることが問題視されています。

 東北大学の医学部教授であった久道茂氏は,著書「医学・医療の品格」の中で,医師不足は㈰医療の高度化,㈪大学医局の弱体化,㈫診療科の偏在,㈬地域偏在,㈭医療費の抑制策が地方の病院を廃止に追い込んだ,㈮出身地へ帰る医学生が増えた,㈯医師も患者も専門医志向,㉀過重労働と訴訟の多さ,㈷患者が多すぎる,㉂ミニ総合病院を作りすぎたことを指摘しています。
興味深いのは,専門医志向の観点です。
 最近の患者さんはちょっとした病気でも専門医にかかろうとすることも要因と指摘し,医師の間でも専門医の方が格上と考える風潮が出てきていると指摘しています。
 このようなことは,がん医療の分野でも起きているのかもしれません。日本では,米国に比較して,臨床腫瘍医が少ないとマスコミなどで大きく報道されていますが,そのために,がん患者やその家族は専門医を探して「難民化」するような現象がみられているとも言われています。
 しかし,マスコミは,米国の臨床腫瘍医がどのように教育されてきているのかを問題にすることはありません。MDアンダーソンがんセンターの上野先生は,昨年の日本癌治療学会シンポジウムで,米国と日本の臨床腫瘍医の育成の違いを説明されていました。米国では,内科専門医として何年か経験した上で,初めて臨床腫瘍医となる資格を獲得できると説明されていました。すなわち,米国では,臨床腫瘍医であれば,内科的な専門性を有するので,一般的な疾患についても治療ができるそうです。日本もそうであると言いたいところですが,少し促成栽培のような印象もあります。
 言い換えますと,質の高いがん治療を行うためには,身体全体を診ることができる総合診療を行える能力が極めて重要であり,いくらがん治療のことがわかっても,患者さんの状態を適格に診ることが出来ない,また,一般的な病気の治療のことを理解し得ない医師は,良いがん医療を提供できないのではないと思います。
 がん医療の質を高めるには,がん医療に関わる医師や看護師の絶対数を増やすことが基本で,次に優秀な医療専門職や専門医を育成することが重要と思いますし,医療全体の基盤を構築しなければ,がん医療の質を向上できないのではないかと思います。
 医師不足,医師の偏在化に関しては,色々な原因もあると思いますが,まずは,医師や看護師数を確保することが重要で,それなしに,色々な施策をしても,功を奏しないのではと思っています。
 そして,需要と供給のバランスが崩れた状態で質の高い医療や,がん医療は望めないのではないかと思います。国民一人一人が,需要という立場から,医療をよくするためにはどうすべきかを考えていくことも重要なことと思います。
 皆さんはいかがお考えでしょうか。

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