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予後告知について考える

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 本日(5月4日)の読売新聞の「がんと私」というコラムに本田麻由美記者が“考えたい「患者中心」の意味”という記事を掲載しています。
読売新聞コラム「がんと私」

 今回の記事は,前回の本田記者の記事に対して,以前,栃木県がんセンターで緩和ケアに携わっていた種村健二朗医師(現,武蔵野大看護学部教授)の意見を中心に書いています。
 この種村医師の意見について,賛同できることが多いのですが,気になる点がいくつかありましたので,私個人の意見を述べてみたいと思います。

 まず,『「一人一人の患者の意思を尊重した医療が『患者中心の医療』だと思う」とし,「その実現には患者本人への病状,予後も含めた告知が不可欠なのに,そうした議論がない」』という点です。
 この点の基本にある,患者さんへ真実をお伝えし,患者さんの意向,意思を尊重しながら,科学的に証明された標準治療を中心に患者さんの状態に適した治療やケアを提供するという点については,異論がありませんが,「予後告知」を含めた告知が不可欠という点は,問題があると思います。その理由は,正確な予後告知は現段階では不可能であるからです。数カ月という予後告知を受けながら,何年も生存されている方がおられますし,臨床医は予後を短く考える傾向があることも指摘されています。「予後がよくないと考えられる」とは言えても,具体的な期間を指摘することは多くの場合に不可能と思われます。そのような状況で予後を告知するというのは,「積極的な治療をあきらめる」ということを誘導することになりかねません。
 多くの緩和ケアの専門の方は,積極的ながん治療から緩和ケアへの「ギアチェンジ」が必要といわれますが,どの時点で「ギアチェンジ」をすべきなのか明確にされない限り,適切な緩和ケアが行えないと危惧しています。
 『「延命を期待して積極的抗がん剤治療を続けたい」のか,「痛み軽減の治療だけでいい」のかを,患者自らが決めるためには,本人が自分の病状を正確に認識できるように,十分な説明が行われていることが必要だ。』と書いていますが,必ずしも二者択一ではないと思います。マイルドな化学療法や分子標的治療を行いながら,緩和ケアも行うということもあり得るとおもいます。
 患者さんの病態,病状をよくアセスメントして,患者さんやご家族とよく相談しながら,患者さんの意向に沿った治療を提供することが必要ではありますが,現状で「予後告知」は間違った判断をさせる可能性もありますので,「予後告知」を含めた告知をするということに対しては,賛同できません。

 がん患者である本田記者が言うように「患者側にも病状や予後の告知を受けて生き方を選択する覚悟が必要なのかもしれない。(中略)。患者の生きる意欲を奪うような告知では意味がないとも思う」という点は当然のことと思います。

 次は,『本人が事実を知って苦しむことは,その苦しみからの解放への過程の始まり。必要なのは,その過程に沿った真摯(しんし)なケアであり,人間を見くびった“優しさ”ではない」』という点です。
 人間を見くびった“優しさ”というのはどのようなことなのかわかりませんが,患者さんと向き合いながらご家族とともに患者さんに適したケアをすることは当然のことです。しかし,「本人が事実を知って苦しむことは,その苦しみからの解放への過程の始まり」という点は,賛同できません。確かに,患者さんが真実を知って,それから精神的に,身体的に回復することを援助することは重要なことなのですが,「患者さんが事実を知って苦しむことがないようにケア」していくのが理想の医療と思いますので,患者さんが苦しむことを前提とした議論は,むしろ不気味と思います。

 また『「患者を蚊帳の外にして家族と医師が話し合う現状のまま,『患者中心主義』が推し進められようとしているのは不気味だ」』という点です。
 『患者中心の医療』は,患者さんをがん医療に参加していただき,提供する治療やケアにも患者さんの意向を反映させることに他なりません。すなわち,患者さんを蚊帳の外にして,患者中心の医療はあり得ないと思います。もし,そのようなことが医療現場で行われているとしたら,その現場は偽善的に対応していると言わざるをません。
 しかし,患者さんだけでなく,ご家族の意向も重要と考えなくてはなりません。 患者さんと患者さんを支えるご家族の意向が異なることもありますが,基本的には,患者さんを優先しながら,ご家族の意向も考慮していくということも必要と思います。
 『患者中心の医療』は,患者さんが納得する治療を受けることに他なりません。 そのためには,ご家族との協力も必須であるはずです。患者さんだけの話を聞く,ご家族だけの話を聞くというでは,『患者中心の医療』は到底実現できない可能性があると思います。
 「患者中心の医療」,「患者参加型の医療」を実現することは,質の高いがん医療を実現することに他なりません。しかし,これらは標語ではなく,本当に患者さんのことを考え,患者さんの意向を確認しながら,現在の標準治療を中心に,患者さんに適切と思われる治療を提供していくことが必要と思います。
 その段階で必要なことは「予後告知」ではなく,患者さんの病状,状態を適切にアセスメントし,その状態にあった治療を提案することと思いますし,その上で,患者さんの意思やご家族の意向を反映することが重要ではないかと思います

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