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糖尿病と乳がん患者の死亡リスクとの関連性

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がん医療総論
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 先日,乳がんの再発や死亡に肥満が関連するという研究論文を紹介しました。
 本日は,乳がん診断時の糖尿病と死亡リスクの関連性を検討した統合解析結果がJournal of Clinical Oncology誌というがん専門誌に掲載されていますので,その論文を紹介します。


Peairs KS et al. J Clin Oncol Published online November 29, 2010

 この研究は,乳がんの診断時に糖尿病が既にあった患者さんと糖尿病でない患者さんとの死亡リスクをひかくした論文の中から,糖尿病の診断を適切に行っていて,乳がん患者の死亡原因が記載してある論文8報を選び出して,糖尿病と死亡リスクの関連について検討したメタ分析という手法を用いて統合解析したものです。

・全ての死因を含む全死亡のリスク
 ハザード比1.49,95%信頼区間1.35-1.65

 この結果,乳がんと診断されたときに既に糖尿病がある患者さんは,糖尿病がない患者さんに比較して,有意に全死亡リスクが高く,全死亡リスクは49%高いことが認められました。

・乳がんによる死亡リスク(乳がんによる死亡リスクを検討した二つの論文結果をメタ分析)
 ハザード比1.20,95%信頼区間1.07-1.35

 乳がんによる死亡リスクも糖尿病を有する患者さんで有意に高く,29%死亡リスクが増加していることがみとめられました。また,統合解析はされていませんが,化学療法を受けていない患者さんでは,糖尿病による乳がんによる死亡リスクが増加しないとの報告もあります。

・糖尿病と乳がんの進行度(病期)
 米国の患者データベースの解析では,進行が進んだ例に糖尿病が多いことが示されています。
 オッズ比1.17,95%信頼区間1.08-1.27

・糖尿病とがん治療法の選択
 糖尿病でない患者さんに比較して,糖尿病の患者さんでは手術やホルモン療法を受けることが多くなっていて,化学療法や放射線療法を受けることが少なく,乳房温存術を受けることも少ないと報告されています。
 手術 オッズ比2.32,95%信頼区間1.01-5.38,P<0.05
 ホルモン療法 オッズ比1.66,95%信頼区間1.18-2.31,P<0.05
 化学療法 オッズ比0.52,95%信頼区間0.36-0.75
 放射線療法 オッズ比0.73,95%信頼区間0.60-0.88
 乳房温存術 糖尿病患者:39%,非糖尿病患者:46%,P=0.01

・糖尿病と治療の副作用
 乳がんの術後化学療法を受けた患者さんを対象に糖尿病と化学療法の副作用の関連性が検討された論文があります。その論文によると,糖尿病を有する患者さんでは,化学療法による,感染や発熱,好中球減少,貧血などの副作用が多いことが示されています。
 化学療法の副作用 オッズ比1.38,95%信頼区間1.23-1.56
 感染/発熱 オッズ比1.43,95%信頼区間1.2-1.7
 好中球減少 オッズ比1.22,95%信頼区間1.03-1.45
 貧血 オッズ比1.24,95%信頼区間1.05-1.47

結論
 糖尿病でない患者さんに比較して,乳がん診断時に既に糖尿病がある患者さんでは,死亡リスクが高く,進行例が多い傾向を示し,治療方針を変更している可能性が高い。糖尿病と乳がんの病態生理学的な関係を明らかにする研究や糖尿病ケアを改善することによって乳がん患者さんの死亡を減少することが出来るかどうかの研究が必要となる。

<コメント>
 糖尿病を有する患者さんでは,乳がんによる死亡リスクやいずれの死因による死亡も有意に高いことが認められました。このことは,糖尿病の患者さんでは,乳がんだけでなく,乳がん以外の死亡も多いことを示しています。
 糖尿病を有する患者さんは,高齢者や進行例に多いということも一因かもしれませんが,糖尿病患者さんに対する治療法は,手術やホルモン療法が多いものの,化学療法や放射線療法が少ないということも示されています。さらに,糖尿病患者さんでは,術後化学療法の好中球減少,感染/発熱,貧血なども,多いことが示されています。
 これらの結果は,糖尿病があれば,科学的に立証された標準治療を患者さんに提供することが難しくなることもあることを示していると思います。
 血糖が高くなるとインスリンが分泌されます。糖は細胞(特にがん細胞)に取り込みされやすく,がん細胞をより活性化しやすく,インスリンも細胞(時にがん細胞)の増殖を高めることも知られています。
 食事後は血糖値が高くなり,インスリンが分泌され,血糖値は低下しますが,糖尿病のように血糖値が高いまま維持する場合には,がん細胞の増殖にも働く可能性があると思います。
 糖尿病治療薬であるメトフォルミンが,がんにも効果を示す可能性が指摘されていますが,現在のところ,糖尿病を有する患者さんに対して,どのような治療をすべきかという確立されたデータはありません。
 したがって,食事を楽しむことは重要と思いますが,糖尿病にならないように適切に食事を摂取する,運動をするという予防が重要となると思います。

<関連情報>
肥満と乳がんの死亡リスクの関連性
http://clinicalscience.info/modules/cancer_support/details.php?bid=259
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