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日本緩和医療学会に参加して

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緩和ケア
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 先週(7月4日〜7月5日)に静岡で開催されました日本緩和医療学会に参加してきました。
 先週(7月4日〜7月5日)に静岡で開催されました日本緩和医療学会に参加してきました。
 ホテルの手配が遅れたため,静岡のホテルはどこも予約で一杯であったために,薬剤師の仲間の紹介で,焼津の温泉ホテルに宿泊することにしました。
 第1日目の朝に,静岡県沼津市付近が集中豪雨があり,東海道線がストップしたため,学会には遅れて参加することになりました。

 学会参加は,学会発表を聞くことではなく,親しくさせていただいている医師,看護師,薬剤師の方々と交流し,情報交換することが主な目的としていますので,演題の新しい情報はありません。

 がん対策基本法の施行以来,がん医療の早期からの緩和ケアが唱われているためか,参加人数もかなり多くなってきました。多くの方々が参加するということは喜ばしいことと思っています。
 しかし,気になることも生じているようです。

1.緩和ケア専門職の養成のこと
 がん対策基本法の施行で緩和ケア医を育成しなければならない課題を担ったためか,緩和医療学会で緩和ケア医の育成に注力する方針を決め,教育なども医師中心にするようになったようです。
 緩和医療学会は,医師,看護師,薬剤師,心理士,ソシャルワーカーなど多くの専門職が集う学会であることが意味あると思っていましたが,医師だけを育成していいのだろうかという疑問もあります。
 緩和ケアの精神や目の前の患者が症状で苦しんでいるいれば,どんな専門であろうが,患者の症状を和らげる医療・ケアを提供し,患者のQOLを維持・向上させるために必要な生活支援などの介護を行うことが理想的であると思います。
 そういう観点では,医師だけを育成するというのは,緩和ケアを充実させることにはならない可能性があるように思います。
 学会の重鎮の医師から,緩和ケア医の教育に協力して欲しいと要請されましたが,複雑な気持ちでいます。
 薬剤師は,緩和医療薬学会で緩和ケア認定薬剤師を養成することになっているようですが,がん専門薬剤師を養成するだけでいいのではと思っています。がん専門薬剤師と緩和ケア認定薬剤師,がん薬物療法認定薬剤師とはどのように違うのか理解できないところがあります。安易に認定するというのは,結局,患者さんのためにはならないのではないかという気もするのですが。

2.優秀演題賞
 今回も優秀演題賞が発表されていました。その多くは,緩和医療学会の重鎮の先生方が関わる厚生化学研究費「がん戦略研究」のメンバーでした。
 国民の税金を利用して行う研究ですので,質が高いのは当たり前でなくてはならないと思いますし,優秀演題を選択するメンバーが関わっている研究を優秀演題として表彰するというのは釈然としないところがあります。
 アンケートなどが中心の発表でしたので,EBMの観点からすると,良い研究とは思えませんでしたが,例え,優秀な演題であろうと,自分たちの関わる研究を表彰するというのは疑問です。
 研究費をもらわなくても,一生懸命,緩和ケアを実践し,そのデータを発表している方々もいます。そういう方々を表彰して,奨励することが,質の高い緩和ケアを普及することになると思うのですが。
 研究費をもらっている方々は,税金を使わしてもらっているということを理解して,質の高い研究をして欲しいと思います。

3.オピオイドについて
 現在使用されるオピオイドには,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルなどがあります。
 肝機能異常,腎機能異常,耐えられない有害反応がある,緩和されない疼痛の存在のために,異なるオピオイドに変更することがあります(オピオイド・ローテーション)。
 このような場合,多くの医療機関で換算比を使用することが多いと思います。しかし,このような換算比は経験的に,また,平均的な薬物動態のデータから推定されているものです。実験的なin vitroの活性は,モルヒネがオキシコドンより高いのですが,経口投与した際の,生体利用率がモルヒネが25〜30%,オキシコドン約60%であるために,オキシコドンの臨床投与量は,モルヒネより低い(約2/3)と推定されています。
 フェンタニルパッチは,皮膚吸収ですので,その場合も吸収率を考慮しなければなりません。そして,皮膚の状況や体温によっても吸収率が変わります。現在の換算比はモルヒネ1日60mgを投与している患者では2.5mg製剤に相当すると考えられていますが,この換算比は,平均的な薬物動態から算出されているもので,患者個々のモルヒネの生体利用率やフェンタニルパッチの吸収率によっては,その換算比が変化すると考えられます。すなわち,換算比はあくまで目安でしかすぎず,オピオイドを変更する際には,改めて,患者に適切な投与量を決めるタイトレーションが必要になると思います。換算比はあくまでの目安にしか過ぎないことを理解していただければ幸いです。

 タイトレーションは,速放製剤を用いることが原則ですので,速放製剤があるモルヒネに変更することが重要となると思います。
 フェンタニルパッチは,従来のリザーバー製剤からマトリックス製剤に剤型追加されました。その際,1.25mg製剤という従来の用量の半分の製剤も発売しました。フェンタニルパッチは3日1回の張り替えとなる製剤ですので,細かい用量設定が困難な製剤と思います。フェンタニルは優れた製剤で,高用量のモルヒネやオキシコドンでもうまく疼痛緩和出来ない場合には,必要な製剤であることは間違いありませんが,細かい用量設定を必要とする時期にはふさわしくない製剤ではないでしょうか。
 米国FDAはフェンタニルパッチの過剰投与のための死亡例が報告されたために2005年7月,2007年12月の2回にわたって適正使用の警告を出しました。FDAの警告は,フェンタニルの特性を考えると当然のことと思います。
 しかし,緩和医療学会のポスターセッションの会場で,フェンタニルパッチを販売している本社の担当の方が,「フェンタニルはモルヒネより先に投与すべき」と話しているのを聞きました。立ち話で正式なコメントではありませんが,本社の担当が学会場で,そのようにプロモーションしていることは,この方は,フェンタニルパッチへの愛情がなく,ただ売り上げを上げたいというだけの人と思いました。
 このようなプロモーションをする製薬企業の担当も問題ですが,この話をそのまま信じて,フェンタニルを初期から処方する医師にも疑問があります。
 これでは,患者さんのために質の良い疼痛治療を提供することは難しいのではないでしょうか。

 モルヒネは,腎障害があるとモルヒネの3位と6位がグルクロナイド抱合されたM3G,M6Gが排泄されず,精神的な症状がみられるために,そのような場合にはオキシコドンに変更することが行われています。軽度から中程度の腎障害であれば,CYP2D6により生成される活性代謝物のオキシモルフォンがごく微量ですので,オキシコドンに変更しても問題は少ないと思いますが,重度の腎障害があれば,オキシモルフォンの排泄が遅延することになります。このような重度の腎障害におけるオキシコドンのデータは殆どありませんが,オキシモルフォンの排泄が遅延する影響(その影響は明らかにされていませんが)を頭に入れておく必要があると思います。
 重篤な腎障害があれば,どんなに安全で,優れた医薬品であろうと,有害反応などの影響がでると考えるのが薬物療法の原則です。
 
 がん疼痛治療は,患者の痛みの性質,痛みの強さ,痛みの発現時期,痛みを緩和する要因,増悪する要因,肝機能,腎機能などをアセスメントして,その上で,オピオイド製剤の薬理学的特性を理解して,オピオイドなどの使用製剤を選択し,タイトレーションで適切な投与量を選択して,治療を行うのが原則です。 疼痛で苦しむ患者さんの痛みを緩和するためには,まずはこの原則を踏襲することが重要であると思います。
 適切な投与量を決める時期には,速放製剤がある製剤を利用して,タイトレーションを行いながら,投与量を設定することが重要で,初期に安易にフェンタニルパッチを貼付するということは適切ではないと思われます。

 多くの患者さんに役立つ緩和ケアであって欲しいと改めて感じた2日間でした。